初めて見たとき、魔法使いだと確信した。ただの彫刻刀で、こんなに繊細なライオンが彫れるわけないもん。

うっとりと彫刻画を眺めていると、後頭部を固い物で叩かれた。パコン、と小気味よい音がして、反射的に声をあげる。

「あたっ」

「染川、よそ見してないで手を動かせ、手を。お前だけだぞ、作品出てないの。」

「加賀せんせぇ、あたし不器用なのにちょっかい出したらまた指彫りますよ。」

「何が哀しくて美術の時間に保健の実習しなきゃならんのだ。頼むから流血するほど深く指彫るなよ。」

顔を真っ青にして加賀先生はあたしに忠告した。どうやらあたしが尊敬している魔法使いは血が苦手のようだ。この間の授業であたしがやらかしてしまったことがトラウマになってるらしい。自分の手に目をやる。もう自由になっているが、昨日まで縫い目と包帯があったから自由に動かせなかった。