愛しいキミへ

ザアァ─
風の強さに目を瞑る。

目を開けて見えたのは、髪が乱れ、目を擦っている沙菜。
今の風のせいで、目にゴミでも入ったのだろう。
痛そうにしていた。

悠兄が隣で沙菜の様子に気付き、覗き込んだ。

ゴミの入った痛みで泣いてしまったのか、悠兄が沙菜の目元を指で拭う。

遠くて小さいけど、沙菜が笑った。
それを見て、悠兄も笑った。

2人が見つめあう。


一瞬の出来事だった










──2人がキスをした。

触れる程度の淡いキス。
一瞬だったはずなのに・・・
何分も何十分も見ているようだった。

俺を現実に引き戻してくれたのは、背中の暖かさだった。
青柳が後ろから、俺を抱きしめていた。
ギュッと包み込んでくれていた。

沙菜と悠兄は照れ臭そうに笑い合った後に、マンションの中へと向かっていく。
それを見るな、とでも言うように、包み込んでくれている腕に力が込められる。

「…利用されても良い。私を好きじゃなくても良いからっ。…そばにいたいの…。」

腕を引き離し、振り向き、向かい合う。
じっと見つめてくる、真剣で一途な想い。
青柳の涙の跡に触れる。
涙の跡残る頬は冷えきっていて、冷たかった。
その冷たさはきっと、俺をずっと待っていたから。