愛しいキミへ

細めた目を開けると、小さい頃から見慣れている屋上が広がっていた。
チラチラ降る白い雪で先が見えにくいが・・・フェンスの近くに誰かいる。

ジャリッ
一歩、屋上に足を踏み入れた。
すると背を向けていた人物が俺の気配に気づき、ゆっくりと振り向いた。
俺の姿を見て驚いて、小さい声で呼ばれる。

「…雅樹?」

聞こえてきた声。
その声を聞いただけで、思わず涙が出そうになった。
この二年、聞きたかった声・・・
会いたかった人───

「久しぶり…沙菜。」

屋上の入り口にいる俺と、フェンスの近くに立つ沙菜。
少し距離があるが・・・確かに沙菜が立っている。
赤地のチェックのロングスカート。
ショッピングセンターで見た時と同じダッフルコートを着ていた。
やはり髪がほんのり茶色くなっているみたいだ。

「久しぶり…。良かった。来てくれたんだ…よくこの場所がわかったね。」
「ここしか思いつかなかった。…待たせてごめん。バイトだったんだ。」

お互いにゆっくりと近づく。
冷たい雪の下。
雪がいつから降っていたか俺にはわからない。
沙菜がいつから待っていたかもわからない。
けれど近づいてわかったのは、沙菜が俺をここで待っていてくれたこと。
傘をささずに待っていた沙菜の肩や頭に、白い雪が乗っていた。

二メートルくらいの距離をとって、俺と沙菜は近づくのをやめる。

「何で傘もささないで待ってるんだよ。」
「始めは雪、降ってなかったんだけどね。…傘取りに行ってる間に、雅樹が来たら困るから…。」
「そっか。…ずっと…待ってたの?」

沙菜は肩の雪を払いながら話す。
右手で左肩・・・そして左手で右肩・・・その雪を払う手を見て、俺は息をのんだ。