記憶を持つ者

そこは、思っていたような“部屋”というよりも城の一間と言った方が正しく、生活感は当然のようになかった。


「―――ヤイバ…」


茫然とした声が自然と零れ、気付いた魔王が気怠そうに視線のみをこちらへ流す。

その向かいにいるのは、片膝を立て、辛うじて崩れ落ちるのを支えているヤイバだった。


「起きたか、ユイ」


その時の私の眼はヤイバしか映していなくて、魔王が血の付いた抜き身の剣を持ちながら近付いて来ても動けなかった。

何故、強い力を持つ刀の式神が刃物で傷付くのか。

何故、こんな事に―――


「ユイ様に近寄るな!」


そのヤイバの声でハッと我に帰った私の目の前には、剣の切っ先を首筋に向ける魔王が立っていた。