記憶を持つ者

微動だにしない相手に、恐怖を感じた。

ここは魔界だ。城にいるから魔物が忍び込む事はないと思っていたが、まだまだ自分の知らない事は多い。何が起こっても、不思議ではないのだ。


もう、作り笑いを浮かべる余裕は、ない。


後ろにいる。
それ以上でもそれ以下でもない相手は、正体を見極めるどころかその姿を感じとるのすら出来ない。


その時気が付いた。灯を点けた、光の式神は―――?


消されたはずはないのに、式神の姿は何故か消えていた。いくら部屋の中にその気配を探しても、どこにもいない。

不安が押し寄せてきて、緊張と恐怖のあまり足が震えそうになるのを隠せなくなっていた。