記憶を持つ者

「…その名で呼ばれるのは、久しぶりだな。」


小さな笑みを作り、白牙の左肩をポンと軽く叩くと、そのまま私の方へ振り向いた。

少しホッとした私は、真っ直ぐに彼を見つめる。


「ユイ。魔族がお前に害を与えぬように、護る。
折角の白牙の頼みだが…
そう約束する事はできない。」


「…何だと?」


肩の手を払い除けながら白牙が眉間に皺を寄せる。


「ワールドを越えるとなると、不具合があるのでな。
魔界内ならば護る事は出来るが…ヒトの身でこの魔界に永く留まるには、条件がある。」

「条件?」
「…そういう事か。」


私と白牙は、同時に声を発した。

魔王は、
何だか楽しそうに笑っていた。


その瞳が金色だった事に、今更気付いた。