「先輩?」


なかなか答えないあたしに、駿は聞いてきた。


恋はしないって決めたから、駿の事もただの部下としか思ってなくて、それを正直に伝えた。


「斉藤君のことは、部下としか見てないよ。
ごめんね…」


そう言ったあたしに、駿は信じられない言葉を言ったんだ。


「昔の男…ですか?」


聞こえてきた言葉にあたしは焦った。



誰も知らないはずなのに!


思わず見上げたあたしに、駿は


「俺、先輩が時々、悲しそうな顔してるの知ってますよ。」



ってあたしの目を真すっぐ見て言ったんだ。



「俺じゃダメですか?
確かに、俺は仕事も出来ないし、先輩の部下ですけど、先輩を好きな気持ちだけじゃ…ダメですか…?
俺が先輩の事、変えますから!」



そう言って抱きしめてくれた。

あたしの表情が変わる事に気づくぐらい、あたしの事、みてたんだね…



駿の腕のなかは暖かくて、自然と涙がでてきた。



「泣いていいですよ」



その言葉で、あたしは涙を止められなくなった。



そういえば、振られてから泣いてなかったな…


前を向く事だけに必死でちゃんと向き合えてなかったのかもね…