「CM出演が決まったよ」
唯から連絡があったのは3日前。
演技の練習がしたいので手伝って欲しいということで あつしのアパートに唯が来ることになっている。

ガチャガチャ。

合鍵を使って唯が入ってきた。

「ただいま」
「おかえり」

唯は着替えもせずにバックから青い表紙の台本を取り出すと あつしに見せてきた。
芸能界の世界ではCM出演は芸能人として1ランクアップしたことになるらしい。
唯もよほどうれしいのだろう。
台本を捲りながらCM内容を説明する。

「チョコレートのCMで二条聖夜(にじょう せいや)さんと共演で、明後日、ロケに行くの。え~と、あっちゃん手を かして」

唯はあつしと向かい合わせに畳の上に座り、手を握った。

「わたしの鼓動、感じて欲しいの」
唯の手に誘導され、あつしの手が唯の胸に押し当てられる。
「なに、やってるの?」

唯の胸に触れても あつしは特に何も感じない。
しょっちゅう抱きついてきたりするため、胸の感触は充分知っているからである。

「こういうシーンなんだって。わたしは、どういう表情をしたらいいかなあ?」

こうして夜遅くまで唯とあつしの練習は続いた。