呆然としながらも、綺羅は吸い寄せられるように視線を離すことができなかった。


そして、自分のことではないのになぜか周囲に誰かがいないかと勝手に確認までしてしまった。





 確認している間に印は完成してしまったのか、綺羅が視線をプレハブに戻した頃には目の前にはうっすらと透明の膜が張られていた。


この膜は普通の人が見る限りでは確認することはできない。


だが、霊気を持つ綺羅にはただの透明の膜が微かに放っている光を見て取ることができた。





 これは、一体どういうわけだ?


自分と同じ力を持つものがこんなにすぐ近くにいた?





 綺羅はもう一度、印を結んだ人物へと視線を向けた。


その人物が地面に何かしらの文字を書いているのを見て、綺羅は廊下を走り抜けた。













 ぜぇぜぇと荒い息を整えながら、未だにプレハブの前で地面に必死に書いている姿を確認すると綺羅は一歩ずつ相手へと近づいていく。


目の前の人物は綺羅が自分に近づいてきていることすら気づいていないのか一心不乱に文字を書いていく。


「おい」





 綺羅が発した声に座り込み書いていた人物がビクッと体を震わす。


そして、ゆっくりとだが綺羅のほうへと振り返った。


「お前、今ここで何をしていた?」


「あ………」





 綺羅の言葉と重なるような声。


その声は綺羅の感情とはまるで正反対のような声色を発していた。