親切心から声をかけたというのに、冷たい言葉を放たれた哀れな女生徒の顔を見ようと綺羅はあえて見ないようにしていた慈のほうへと視線を向けた。





 あ、あいつ………。





 哀れな目にあったのは、あの転校生だった。


「ちょっと! 相良さん、今のは酷いんじゃない?」





 慈に冷たく突き放され、何も言えずに固まっていた転校生の肩に手を置くとクラス委員長の杉本今日子(すぎもときょうこ)がズイッと転校生を庇うように前に立ち、腰に手をあて仁王立ちの姿で慈のことを睨みつけた。


「酷いって…何が?」





 すごい迫力で睨みつけられているにも関わらず、慈は全く動じず、ちらりと今日子を見ただけだった。


それが逆に今日子の神経を逆撫でする。





 こりゃ、揉めそうだな………。





 元来、きつい性格のため敵を作りやすい慈。


今までだって、何度となくこういう諍いはあった。


その間に入るのがいつも真里。


だけど今日、その真里はまだ登校していないという悪状況。


それともう一つ。


相手が悪い。


相手がこの杉本今日子というのが問題があった。





 クラス委員長である今日子はクラスでも中心にいる人物だ。


女子だけではなく、男子にも人気はあるし、彼女の言っていることはほぼ正論に近い。


そんな中で、彼女に諌められる慈は皆に責められても仕方がないと思われるだろう。





 もちろん、慈のほうに非があるのは明白だが、それを素直に認める慈ではない。


このまま、すんなりといくとは思えない。