「はっきり言っておくが、あの部屋には悪霊はもういなかったが、あれを倒したのは俺じゃないぞ。俺は何もしていない。つまり…もしかしたら、あそこにはまだ、悪霊がいるかもしれない」


「え………?」





 今まで、何とか綺羅の手から逃れようともがいていた慈はその言葉を聞いた途端に急に大人しくなった。





 意識を集中したところで、何の気配も全く感じなかったが、綺羅は危険がすべて取り払われた確信を持てないことからさっさとこの場から去ることにした。


慈がそのことに素直に頷くとは綺羅も思ってはいなかった。


だから、このような脅すようなことを言ったのだが、効果はてきめんだったらしい。





 激しく抵抗していた慈は今では先頭を切って、少しでも早くこの屋敷から出て行こうと必死になっていた。













 薄暗い屋敷の中をようやく抜け、外に出た綺羅たちは誰からともなく屋敷を眺めていた。




「ハァ~…、それにしても、こんな中途半端な状態でどうやって報告書を書けばいいのよ。そもそも現れた悪霊を倒したのは麻生くんじゃないとか言うし、はぁ~、頭が痛い………」





 慈は頭を抱えながら、その場に蹲る。


そんな慈の背中を擦りながら、真里は慈を慰めていた。


そして、柏葉はやっとこの不気味な屋敷から解放されたことに安堵していた。





 そんな中、綺羅一人だけが複雑な表情で屋敷を見つめる。





 真里には否定したものの、微かに残る自分の中での疑問。


それは、あの光が何かしら深青と関係があるのかもしれないという希望だった。