「吉備!」





 いつものごとく、学校へと通っていると光浦を呼ぶ聞きなれた声に綺羅は振り返った。


 後ろを見ると、雅俊が光浦に何かを話しかけていた。





 高校に入ってから疎遠になっていた雅俊と吉備の関係。


 だが、この事件により、二人の関係は元に戻っていった。


 そんな光景に満足しながら、綺羅は邪魔をしないように先に校舎へと入っていった。





 和田あゆみという諸悪の根源は退学になり、グループ内の人間も停学処分。


 だからといって、吉備のいじめの原因が全て取り除かれたわけではない。


 彼をいじめていたのは、クラス全員といっていいのだから。


 それでも、吉備は何も言わずに学校へと登校していた。


 クラスの違う雅俊には何もできない。


 だからこそ、自分は吉備と仲がいいんだぞということをアピールして、少しでもいじめの矛先を逸らそうとしている。


 これでも、雅俊は校内では人気がある。


 その雅俊と友達だというだけで、周りの見方が変わってくれたらという希望的観点があった。





 この先、どうなるのかはわからない。


 だけど、いじめられていた相手を助けようとする吉備の優しさがある限り、吉備はきっと受け入れられる。


 綺羅はそう信じていた。