『今さら、何をしようとしても無駄だ………』





 人の声とは思えないほどのくぐもった声。


 それは、内藤の口から発せられながらも、彼の声ではなかった。


「・・・・・・・」





 その声に綺羅は答えずに、ただ、神経を研ぎ澄ませたまま。


『こいつはすでに落ちた………。

もう、手遅れだ』





 そんな綺羅に何を思ったのか、内藤の中に入っている霊はなす術がないことを強調する。


 それは、ただあざ笑っているようだった。





 霊は手遅れだと言っていた。


 だけど、集中させる綺羅の心の目には、未だに線は見え続けていた。





 綺羅はゆっくりと、目を閉じたまま足を開き、剣を持つ右手を後ろに引くと構えの体勢に入る。


『…今更何をしようとも手遅れだと言っているだろう。

お前には何もできない………!』





 手遅れだと言いながらも、霊の声には焦りが見え始めた。


 綺羅の異様な力に霊も薄々感じ始めたのだろう。





 だけど、綺羅は何の躊躇することもなく、まっすぐに霊へと向かった。





 たとえ、線が見えていたとしても、不発に終わってはどうにもならない。


 この剣を振り下ろすには、線を確実に切るように霊の懐に入るしかなかった。


 神経を最大限に集中させ、綺羅は閉じていた目を開けた。