「彼の能力は生まれつきだったみたい。そのため、幼い頃から、妙なことを言う子供に両親も気味悪がってしまったのね。その後に、弟が出来たのはまた悪かったわ。そのため、両親の愛情は一心に弟に注がれてしまった。世間の目もあるから、どこかに引き渡すとかそういうことはなかったみたいだけど、彼にとっては、つらいことだったんじゃないかな」
幼い頃から。
同じような経験はある。
だけど、綺羅にはたとえ、自分が何か特殊な力を持っていたとしても、それをきちんと受け入れて愛情を注いでくれた両親がいる。
だからこそ、今の綺羅がいる。
だけど、もし、両親が内藤のように自分のことを受け入れてくれなかったら。
自分も同じようになっていたのかもしれない。
そう思うと、綺羅は複雑だった。
一種の同情を感じてしまう。
「だから、彼は家にも学校にも自分の居場所なんてなかった」
「つまり、自暴自棄に事件を起こしたところで、誰かに迷惑が被るとか、そういうことは考えなくてもいい立場にあるというわけだ」
「それ以上に、こういう事件を起こしたことで親の顔に泥を塗ることができるんじゃない?」
「今までの復讐かよ」
親に対しての………。
だけど、そうなると綺羅には一つ引っ掛かりがあった。
「だけど、相楽。そこで、どうして山口詠美が関係してくるんだ? 今回の事件は内藤明彦一人の犯行で筋が通るぞ」
「うん。だけど、そこがちょっと複雑なんだよね。どうやら、内藤の本当の目的は和田あゆみへの復讐みたいなのよ」
「長年の自分の両親への恨みよりも、少しの間にいじめられた経験のほうが強いとはな………」
皮肉げに言った綺羅の言葉に、慈は神妙は表情で顔を横に振った。
「違うのよ。彼は自分のためにこの事件を起こしたわけじゃないの。彼は………」