「綺羅。雅俊くんはコーヒーでよかったのかしら? それともジュースか何かのほうがいい?」





 冷蔵庫を開け、頭を突っ込んだ状態で美恵子は降りてきた綺羅に聞いてきた。


「別になんでもいいよ」





 どうでもいいとばかりの言い草に美恵子は突っ込んでいた頭を戻して振り返った。


「なんでもいいはないでしょう? ちゃんと、雅俊くんに聞いてらっしゃい。人には好みというものがあるんだから」


「わかったよ」





 話が長くなりそうだったので綺羅は逃げるように自分の部屋へと上がる。





 飲み物とかそんなものはどうでもよかったんだけどな。


 ただ、落ち着いて話ができる場所と思って家に連れてきたら、この時間はいつもならお稽古とばかりに出かけている母がなぜか居て、ややこしい状況になってしまったのだ。





 ここに連れてきたのは失敗だったかも………。





 まさか、母が家にいるとは思っていなかった綺羅はすでに後悔していた。


「雅俊。飲み物、何がいい?」





 部屋のドアを開けるなり、綺羅は雅俊に尋ねた。


 雅俊は床に座ったままの状態で顔だけ綺羅に向ける。


「ああ……。別になんでもいいけど………」





 やっぱりな。


 おそらく、そう言うだろうと予想していた綺羅は妙に納得した。