「あいつは、吉備はそんな奴…じゃねえよ………」


「雅俊?」





 語尾を震わせながら、必死に否定する雅俊。


 そんな雅俊を見ながら、綺羅は一つの確信を得た。


「お前、やっぱり光浦のこと知ってるんだな?」





 雅俊は項垂れていた顔を上げると、力なく綺羅の顔を見、コクリと頷いた。


「あいつ、吉備と俺は幼なじみなんだ。だから、よく知ってる。明るいとは言えないけど、別に根暗な奴でもないし、ただ優しいだけが取り柄のような奴で。たとえ、いじめられていたからって誰かに手をかけるなんて、そんなこと、できるような奴じゃないんだよ!」





 いつも茶化した雰囲気のある雅俊。その雅俊が真剣に綺羅に訴えかける。


 そして、周りにいた礼香や真之、真里に慈へと順に視線を巡らせていく。


「いくら優しくても、人には許せる域と許せない域があるんじゃないか?」





 みんなが複雑な表情で雅俊を見ている中で一人、真之だけが冷静に異を唱えた。


「海堂………。お前は吉備のことを何も知らないから!」


「じゃあ、柏葉。お前は光浦のことを知っていたのか? あいつが、いじめに遭っていることを」


「そ、それは………」





 そこまで言ってから、雅俊は言いよどむ。


 はっきりとは言い切れなかった。


 その一瞬の隙を真之は見逃さなかった。


「そんなことも知らないで、今の光浦の何を知っていると言うんだ? 事は一人の人間の生死に関係することだ。お前の個人的な感情に流されるわけにはいかない」





 何も反論することができずに、唇を噛み締める雅俊。


 そんな雅俊の姿を見てから綺羅は真之へと視線を返した。