まさにドスンとこけ、ズザザザザーと廊下を滑ってしまったあゆみはスカートを短くしていたために開けっぴろげになっていた膝を押さえる。


 膝に手を這わし、そっと、その手を上にあげると、月の光に微かに浮かんだ自分の手が赤く染まっていた。


「何、これ………」





 たかが、こけただけ。


 せいぜいすりむいた程度だと思っていたあゆみは自分の手に染まった赤い血にバッと自分の膝を見る。





 まさか、自分にあまり痛みが来ていないだけで本当は重傷?


 なんて思いながら見たあゆみ。


 だけど、あゆみは自分の足にとんでもないものを見てしまう。





「ヒッ………!」





 自分の膝を真っ赤に染まった手が掴んでいる。


 手は後ろへと伸びているのだが、あまりの恐怖にあゆみは後ろを振り返ることができずに固まったまま立っていた。





 今にも、腰が抜けてしまいそうなこの状況。


 足はカタカタと震え、目も見開いたまま、額からは冷や汗が滴り落ちていた。





 逃げ出そうとは思うのだが、右足の膝だけではなく、左足の踵も掴まれている感触があり、あゆみは足を動かすこともできずにいた。





 誰か、誰か………。





 あまりの恐怖から声を出すことができずに心の中で助けを求めながら、あゆみは必死に口を開けて声を出そうと試みる。





 何度か挑戦し、やっと声が喉の奥から出そうになった、その時―――――





「だ…れ、きゃあああああああああ!」





 あゆみの声は助けを呼ぶこともできず、最後は悲鳴だけを廊下に響かせ、本人諸共消えてしまった。