少しの間、笑っていた礼香は笑いを止めると、にっこりと笑みを綺羅たちに向けてきた。


「でも、安心した~。前後の席なのに、麻生くんが怒ってるかもと思うと、ちょっと気になっちゃって。でも、安心した。それじゃ、あたし教室に戻るね」





 うれしそうに笑いながら礼香は軽く手を振ると、教室へと戻っていった。


「あいつ、一体何しに来たんだ?」





 初めは朝の経緯のことを気にしていたのかと思えば、途中からは真里や慈との関係を聞いてきた礼香の意図がよくわからず綺羅は首を傾げた。


「相変わらずすごいね、綺羅くんは」


「え? 何が?」


「よくおモテになることで」


「はぁ?」





 何かを含んだ笑みを見せる真里に綺羅は眉を寄せた。


 綺羅には真里が言っている意味がさっぱりわからない。


「宮城さん、慈のことはただの口実に過ぎなかったみたいだね。一番聞きたかったことは、私と慈が綺羅くんとどういう関係かということだったみたい」





 ますます眉を寄せる綺羅。


「どういうことだ?」


「つまり……」





 真里は言いかけて少し考えてから、「やっぱり、や~めた!」とにっこり笑う。


「なんだよ。言いかけてやめるなよ」


「だって、こういうこと他人の私から言うのってたぶん違うと思うもん」


「はぁ? 全く意味わかんねぇ」





 綺羅は髪をクシャッと掴むと、困惑した顔で真里を見る。


 だけど、この先無理に意味を聞こうとしても真里はもう答える気はなさそうだ。


 そういう真里の性格を綺羅はよくわかっていた。


「でも、そうだね。一つアドバイスするとしたら………」





 口元に人差し指をくっつけて考えたフリをしながら、真里はその人差し指を綺羅へと向ける。