「宮城…さん………」





 未だに名前を覚えていない綺羅は、一瞬「誰だ?」という顔をしていたが、即座に真里が彼女の名前を言って初めて彼女の名前を頭の中に入れたのだった。


「突然、後ろから声をかけちゃってごめんね。驚かせちゃったよね?」





 はにかむ笑顔に、なぜか真里は顔を紅く染めながら「ううん」と首を振る。


「宮城さんは、どうしたの? 何か用事でも?」





 教室にいるのなら、声をかけられても不思議はないのだが、今、綺羅と真里がいるのは教室から少し離れた廊下だった。


 階段は逆方向にあるため、わざわざこの場所に現れるのは二人に何か用があるとしか考えられない。





 真里の問いかけに礼香はふと、瞳を上に上げ、考える仕草をする。


 その仕草に綺羅は何か不自然さを感じた。


「う~ん…、ちょっと言いにくいことなんだけど、二人って相良さんと仲がいいって聞いてたから」


「あ、今朝の慈とのこと?」





 真里の言葉で綺羅は妙に納得してしまった。


「うん……。あたし、ちょっと相良さんに悪いことしちゃったかな?と思って………」





 どうして、こいつが悪いことをしたと思うんだ?





 そんな風に思った綺羅の口からは、自分の意思とは関係なくするりと言葉が漏れていた。


「朝のことは、相良が一方的に悪いだろ」


「そ、そうかな?」





 綺羅のその言葉で目に見えて礼香は表情を明るくする。