「ウザイ、どーでもいいだろ」
それが駿の一言だったが、直接義則に尋ねる者はいなかった。義則に女子が群がることもなかった。張本人に聞くほど空気が読めない人はさすがにいなかったようだ。どっちがタイプかという雑談は聞こえたが。
義則がタイプだという人はミステリアスだとか、可憐だとか言っていた。同じ顔なのに、義則のほうが女っぽく見えるのは細身のせいか。
「残された時間、有効に使いたいけど……やりたいことないや」
周囲との接触が断たれた部屋に一人いれば、そりゃあ興味がわくものも限られてくるというものだ。
「一応、知識はあるんだけど……昔僕が外に出ていた時に比べればだいぶ近代化したもんだね」
「あの時は、5歳ですか」
「そうなるね」
「……10年近く、あそこにいたんですか」
「それも、そうなるね」
よく気がおかしくならなかったものだ。梓ならとっくに参っている。ゲームもテレビも雑誌もない世界なんて、ありえない。


