家の者に手配をしに行こうとした私を、未礼は止め、大きく首を横にふった。


「大丈夫だから」


「何が?」


私の疑問に、今朝1番の笑顔で答えた。

「探さなくていいよ!」




ダイヤがちりばめられた、馬蹄形のゴールドネックレス。

年季の入ったそれは、確か母君の遺品だったはずだ。




「何故だ?!」


「いいのいいの!」


「そういう訳にもいくまい」

再び家の者を呼びに行こうとする私を、
未礼はためらいもせず、私の肩をつかんで止めた。


「いいから」

強く念をおすように言った。


「早く学校行こ。遅刻しちゃう。運転手さん待ってるよ」


うって変わって明るく言った。

玄関にむかって歩きだす。



「何故だ」


靴を履きながら答えた。

「いーの、落としたあたしが悪いんだしね。
仕方ないよ」


「だから、探すと言っておるのだ!
落としものを探すならば少しでも早いほうがよかろう」


「いーんだってば。あたし、これ以上人に迷惑かけたくないし。
学校の帰りにでもあたし自分で紛失届でも出しに行くし」


「しかし…!」


「あたしが悪いの。
前からね、ネックレスの留め具の部分がゆるくて調子悪いなーって思ってたんだ。
それなのにめんどくさくて、ほっといた。
もっと早くに直しておくべきだったんだよ。
そしたら落とすこともなかったのにね」


門まで続く石畳の上を先を歩く未礼を追いかけ、横に並んだ。

横顔は、ふっ切れている。



「啓志郎くんの言う通り。
あたし、だらし無いから。
あたしがいい加減なせいで、ほんとにもう誰にも迷惑かけたくないんだ。
てゆーか、ものを落としたり無くしたり、あたしよくやっちゃうからさぁ〜」


あははと軽く笑った。

私は黙って聞いていた。




未礼は、登校の車の中でも明るく振る舞っていた。


ネックレスを無くしたなど、気にもとめていないかのように。



「あたし、もうすぐ誕生日だからぁ、おじーちゃんに新しいネックレス買ってもらっちゃおっかな♪」