我妻教育

縁側の履き慣れないサンダルを引きずるようにして、やってきた。


寝起き丸だしの顔だったが笑顔だ。



「おはよう」

今朝は起こさずとも自ら起きたようだ。



「おはよ…啓志郎くん!どうしたのそのオデコ!!」


未礼が驚いた顔で、私の前髪をかきわけた。


「…な?!」


未礼が、まじまじと私の額を見つめ、顔をゆるませた。


何事だ。



「オデコに星があるよ」


星?!





慌てて洗面所に行き、鏡に自分の姿をうつした。



私の額いっぱいに、青色のマジックで、☆のマークが一つ、描かれていた。



覚えのない落書き。
しかも油性だ。


こんないたずらをする人物は一人しかいない。



…あの野郎!!




「メイク落しで落ちるかなぁ〜?」

半分真剣に、半分笑いながら未礼はクレンジングをコットンに染みこませ、私の額をふく。


「なんで、☆?」


「…さあ。兄の考えていることなど、私にはわからないからな」


「なんか意味でもあるのかなぁ〜?」





兄の「☆」には「結び」の意味がある…ようだ。



兄は、文章の1番最後には、何故かいつも「☆」を書くのが癖らしい。



チャラチャラとしていて、私には理解不能だ。



昔、星を書く理由を問うたとき、

「拝啓には、かしこ。前略には草々。そうそう、そんな感じ☆」


と、曖昧な答えをもらったが…。

手紙文の末尾に添える結びの言葉のつもりで、☆を書いていたようなのだ。




しかし、今回は、文章はなくただの「☆」だけ。
何がしたいのか意味不明である。



その話を聞き、未礼は目線を上げて少し考えた。


「バイバイとか、またなって意味なのかな?」


「さあ。特に意味などあるまい。いつものいたずらだ」


「あ!DearにはLoveだっけ、親愛なるって意味かも!愛しているよって」


「…気味が悪い」


ふふふ、と未礼が笑った。