我妻教育

三津鉢は、柄の悪い仲間たちも引き連れていた。



誰か助けを呼ぼうと思ったが、携帯電話が電池切れだった。


未礼は、土地勘のない夜の街をとにかく走って逃げるしかなかった。


道路をこえ、民家をぬって、公園を抜け…。


誰とも連絡をとれない状況を知られることを恐れて、携帯電話で誰かと連絡を取りあうふりをしたりしながら。



面白がるように付きまとってくる三津鉢。

ついに、未礼の腕をつかんだ。





その時、
偶然にも近くを通りがかった兄、孝市郎に助けられたのだ。




お互いの素性を知り、

(兄と未礼は元々の知り合いではなく、今回初めて会ったのだそうだ)

意気投合して、兄の知り合いが経営するカラオケボックスで酒を飲みながら、朝までおおいに語り明かしたらしい。


主な話題は兄の海外での生活について。



そして、そのまま眠ってしまい、気づいたらこんな時間だった…と。





以上が今回の、ことの顛末だ。








「私は疲れた。
今日はもう休ませてもらう」


一通りのいきさつを聞き終え、私は早々に立ち上がった。



事実がわかればそれでよい。



戸に手をかけたところで、未礼が駆けより、また私にわびた。


「啓志郎くん、ほんとに心配かけてごめんね」


「いや。だがもう夜は一人で外出しないことだ」


「うん」

未礼は、神妙にうなずいた。



「もうこんなベッピンさん、1人にすんじゃねーぞ」

兄が茶化すように言った。



「貴方に言われるまでもありません」


言い放って、兄から目をそむけた。



視線のはしで、笑顔で手をふる兄の姿がぼやけてうつった。

「ケーシロー、おやすみ!」



その言葉を最後まで聞きとることなく、私は戸を閉めた。







…もしもこの時、

兄への態度を悔いることがわかっていたとして、
私は一体何が言えただろうか。


どちらにしても、
今と同じように背をむけることしかできなかっただろうが…。






今の私は早く1人になりたかった。