我妻教育

「お坊ちゃま方!
玄関で立ち話もなんですから、どうぞお話は中でなさって下さいな。
夕食の用意も、ととのっておりますから。
さあ、皆さんもどうぞ中へ」

チヨが皆をうながした。



「な〜、な〜、チヨ〜。久しぶりにあれ食べたい!」

とたん、兄が猫撫で声で、チヨにおねだりをした。

いい年をした男が恥ずかしげもなく。


「チヨの卵焼き!しょっぱいやつ」


「はい!ただいま!」

弾むように軽やかな足どりで、チヨは厨房に向かった。




松園寺家の長男ともあろう人物にも関わらず、
能天気で品がない。




私は、兄が、いけ好かないのだ。







場所を家の居間にうつし、

未礼は、私や友人たちに、今回の失踪騒ぎについて、
ことの発端から順に話し出した。


「どーしても、解けないのがあって…。
数学の宿題が…当たりそうだったし…ユッキーに教えて貰おうかなーって…」

遠慮がちに言った。

目線が定まっていない。



私に気をつかっているのが、何となくわかった。



宿題で、当たる当たらまい関係なく、解けずにいる問題は解けないまま、
気にしているところなど見たことなかったからだ。


英語や数学なら私が教えることだってあった。




やはり、
私が未礼の生活態度を責める態度をとったことに、

我が家に居心地の悪さを感じ、桧周の家にに安住を求めに行ったということで、間違いはなさそうだ。






とにもかくにも、
未礼は、昨夜10時過ぎに、我が家を出て、タクシーで桧周の家に向かった。



何か差し入れでも買おうと、タクシーを待たせて、コンビニに入ったのだという。



コンビニで買い物中、未礼が待たせていたはずのタクシーが、未礼を待たずに走り去った。


犯人は三津鉢だ。


タクシー代金を勝手に精算し、追い払ったのだ。



その一部始終を店内から見ていた未礼は、三津鉢に気づかれないように、コンビニから逃げようとした。



だが、三津鉢は気づいて追ってきた。