我妻教育

早足で繁華街を抜ける。



「未礼とずっと一緒にいて、何か変わったことはなかったかい?」


交差点でようやく九地梨が口を開いたかと思ったら、
私に対する質問だった。


「変わったこと…?」


「…例えば、変な電話がかかってきた…とか。
…心当たりがあるんだね?」


「…ただの無言電話のようだったが…。
それがいったい…」


未礼の携帯電話に、何度も着信があったことを思い出した。

私が出たら無言で切れたのだ。



「端的に言うと、ストーカーみたいなもんかな」



何か重い、かたまりのようなものが私の胸の中心に落ちてきた。

ノドがカラカラで、それでもまだ身体に余分な水分が残っているのかと思うほど、汗がふきだした。



「相手の目星はついてるんだ。うちの大学の三年生」



鋭い目つきで、釈屋久がつけ足す。

「あたしが大学でソイツをはってたんだ。
ソイツは普通に大学来てて、さっき帰って行った。

まっすぐ自宅には帰ってないみたいだから、今はソイツの行きつけの場所をまわってるところ」




話によると、

九地梨たちが未礼の失踪とかかわりがあるかもしれないと睨んでいる男は、
以前、未礼と見合いをした相手らしい。



未礼は、私と見合いをする前も、義父に何度も見合いをさせられており、
未礼(と家)に執着する男たちによって、度々トラブルが起こっていたようだ。


その中でもひときわ未礼に執着していたのが、
我が松葉学院の三年で、三津鉢(ミツハチ)という三津鉢物産の御曹司らしい。


未礼の家とも重要な取引のある会社。

その関係もあり、未礼もその男を無下には出来なかったようだ。



校内等で度々付きまといをしていた三津鉢を警戒していたらしい。


それは私とともに暮らしだしてからも続いていたという。

私の目の届かないところで。




「ただの勘違いであってくれれば…いや、勘違いでないと困るんだけどね。
実際、三津鉢が関わってる確証はない。

今はあらゆる可能性を考慮して、手分けして周囲を探っているんだ」