我妻教育

しゃがみこみ、タバコをふかす素行の悪そうな若者たちが、私をちらりといぶかしげに見た。

私はその視線に気づかないふりをし周囲をうかがう。

こんな場所に未礼とつながる心当たりがあるというのか…。

見回しながら不安がつのる。


不意に目の前が暗くなった。

背後に人の気配を感じるのと同時に、

「子どもの来るところじゃないよ」
ハスキーな声が私をとがめた。

慌て振り返るとミントの香りが振ってきた。


「…そなたも未成年ではないか」


「…そりゃそうだけどね」

見知った金髪の女は、ガムを噛みつつ、ふっと鼻で笑った。

未礼の女友だちの釈屋久だ。


「ったく、ガキにつけられてんじゃないよ!」

雑居ビルがら出てきた九地梨に向かって不機嫌な声を投げた。


「あ〜、やっぱりついてきちゃってたか」

九地梨は、釈屋久に対して申し訳なさそうな表情を見せたが、どことなく余裕が感じられた。

私がついてくることも、予測の範囲内だったのかもしれない。



「ここにはいなかったよ」

「あたしのほうも、だ。」

「大学には出てたんだったよね」

「ああ、でもアイツ単車だから、車じゃ限界あった」

「マンションの方にも戻ってないようだったから、ということは…」


「まて!」

私を無視して、頭の上で飛び交う九地梨と釈屋久の会話の意図がわからなかった。

私は二人の会話をとめた。

「私にもわかるように説明してくれ!
未礼はどこにいる!」


二人は顔を見合わせた。
そして九地梨が言った。

「君には言ってなかったけど、実はね、未礼の居場所に一つだけ心当たりがあるんだ」

「本当か!何故それを黙っていた?!」


「あまり楽観的じゃないからだよ」

九地梨の異様に冷静な口調が、かえって事態の深刻さを物語っているようで、私は一瞬呼吸を忘れた。


九地梨が歩きだした。
釈屋久も黙ってついていく。

「まて!まだ話は…」

「時間がない。
次、むかいながら話すよ」