我妻教育

「コンビニフレンドリー!!」

琴湖の携帯を通して、ジャンの声が聞こえた。


「そうそう、そのフレンドリーとかいうコンビニで買い物をして、そこからは、まだわかってません」

「…」


「ご実家にも戻られてないようです」


「…そうか」


「お気を確かに。まだ事件とは決まってませんから。
可能性としては、ただの家出、ということだってございます」

琴湖は、気落ちした私の声をさとったのか、はげますように言った。


「…ああ、そうだな」


誘拐ならば、犯人からの提示があるはずだ。


未礼自身の意志による家出ならば、どれだけ良いだろう。

とにかく無事でさえいてくれれば…。


「啓さまの家のものたちも全力をあげて捜索しております。
すぐに見つかりますわ。
私は、啓さまの家で待機しておりますから、何かありましたらまたご連絡さしあげます」

「…礼を言う。助かる」

「礼は結構ですから、啓さまもこちらに逐一ご連絡をお願いしますわよ」

「ああ、わかった」

「啓志郎ー!ファイト!!」


電話を切るまぎわ、叫ぶジャンの声が九地梨の耳にも届いたようだ。

「琴湖ちゃんとジャンくんだっけ、いい友だちだね」

温雅な笑みを浮かべている。

「君が保健室から飛び出したときに、琴湖ちゃんに言われたんだよ。
ゲームセンターとかカラオケとかさ、君が普段出かけることのない場所ばかりだろう?
心配だからついて行くように、って」

「琴湖が…」

「いい友だちだね」

「ああ」


今回は、琴湖たちにも迷惑をかけることになってしまった。


のちほど恩は返さねばなるまい。


今は、とにかく未礼を捜し回った。



ファーストフード店やら、公園やら、未礼の両親の眠る霊園やら、九地梨の思い付くかぎりの場所を休む間もなく。


時間がたつごとに、焦りで息が浅くなり、心臓の音が耳まで聞こえるようだった。


汗ばむ額を手の甲でぬぐう。


九地梨が気をつかったように、私を見下ろしてきた。

「…大丈夫?疲れたんじゃないの?
少し休憩したほうが…」

「大丈夫だ。次はどこだ」

「ファミレス。僕が思いつく最後だ」