『ゆっきーのとこに行きます。心配しないでね』


朝、居間に行くと、テーブルの上に置き手紙が残されており、未礼の姿は、なかった。



私は、昨夜ここを出て自室に戻ったまま、今朝まで自室から出ずに過ごした。


未礼は、いつの間に出かけて行ったのだろう。



荷物はほとんど残されている。

完全にこの家から出て行ったというわけではないようだ。



見渡すと部屋は、こざっぱりと片付けられていた。

テーブルも置き手紙以外はチリひとつない。
ゴミなどもきちんとごみ箱におさまっている。


そんな整理整頓された部屋の様子に違和感をおぼえ、苦笑いした。
当たり前といえば当たり前の光景なのだが。


未礼は、やれば出来る女なのだ。

昨夜は申し訳ないことをしてしまった。


だが、私は間違ったことは言っていないはずだ。

わざわざ当てつけるように出て行かずともよいものを…。


相変わらずすっきりしない頭のまま、久しぶりに一人の朝を過ごした。





「啓志郎ォーーィ!!
今日の体育の50メートル走、勝負だゼ!!」

いつものことだ。

朝から高テンションで勝負を挑んでくるジャンを毎日軽くあしらっている。

いつものことだ。

だが、今日は相手にするどころか、関わることすら、億劫に思えた。


「オイ、聞いてるのかい?!」

ジャンに顔をのぞきこまれた瞬間、苛立ち眉間にシワが寄った。

「気分が悪い。失礼する」

「なんだって!それはタイヘンだ!
確かに顔色がよくない!
保健室に行こう!さあ、僕につかまって!」

「構うな。ほおっておいてくれ」

「おぉぉ〜い、大丈夫か〜」

心配そうに駆けよってくるジャンと顔すら合わせず私は保健室に直行した。



体調など、どこも悪くはない。
ただ誰とも顔を合わせたくなかった。


こんなことは初めてだった。
私はどうしてしまったのだろう。

保健医は不在だったが勝手にベッドを拝借した。

「…ずる休みをしてしまうとはな、この私が…」

横になり布団を頭までかぶった。