いやがおうでも朝はくる。


6時半。

ふすまの前に立ち、息を吸う。

「未礼!朝だ!」


朝は忙しい。
私は毎朝、弓を引き、精神統一をする。
そして鯉に餌をやる。


だが、今朝からは、日課を一時中断せざるをえない。

未礼を起こして朝食をとらせ、始業に間に合うように送りとどける。
私に課せられた優先事項だ。


昨夜、剣道の稽古をしたあと、今朝やる分の弓を引いておいた。


鯉に餌をやると、私は、未礼の眠る部屋の前へ行った。


昨日は、未礼を起こすのに30分以上はかかった。

よって、今朝は起きる時間の30分前から、起こしにかかることにしたのだ。


何度か外から声をかけた。

起きる気配はない。

「入るぞ!」と宣言してから、ふすまを開けて中に入った。


未礼は、みの虫のように、掛け布団を身体に巻きつけて、ぐっすりと眠り込んでいた。


畳に投げ出された、携帯電話が振動している。

アラームか?

昨日と同じく、バイブが切れては振動し、切れて振動、を繰り返していた。

気づかないなら、意味がないではないか。
なぜ音を鳴らさないのだ。

鳴っていたからといって、すんなりと起きはしないだろうが。
目覚ましで起きてくれたらどんなに楽なことだろう。

私は無駄に響くスヌーズを解除しようと、未礼の携帯電話に手を伸ばした。

ストラップの白いぬいぐるみが薄汚れている。


携帯電話を開くと、数字の羅列が目に飛びこんできた。


着信だった。


名前を登録していないようだ。


「未礼、電話だ」
布団の上から未礼の肩を揺さぶる。

「…うー〜…」
かすかに呻いたものの、未礼は、またすぐ寝入る。

同時に着信も止んでしまった。

しかし、バイブの振動でまたすぐに着信が入ったのがわかった。

同じ番号からだ。

朝っぱらから、急ぎだろうか。


しかたなしに、私はその電話に出た。

「はい、垣津端未礼の携帯電話だが…」
まだ本人は寝ている。
そう私が言う前に、電話は切れた。

無言のまま、相手側が切ったのだ。

一体何だ。

私は眉をひそめ、携帯電話を閉じた。