朝出るときの未礼は、ローズピンクの深いUネックのロングセーターを着ていたはずだ。
胸元も、開襟されいた。
スカートの長さも全然違う。

まるで別人だ。



「これ?借りたの」

私の視線をさっした未礼は、濃紺のブレザーの襟をつかみながら言った。

「お友だちに変なとこ見せられないからね☆
…でもブレザーってほんと窮屈だよねぇ、、、なんでみんな着れるんだろう」

未礼は、不思議そうにつぶやきながら、借り物のブレザーのボタンを外していた。


「…わざわざすまなかったな。感謝する」

よかった。

実は、琴湖たちを連れていく前に、未礼にメールを送っていたのだ。
友人を紹介したいから、よろしく頼む、と。

そのメールを見て、未礼なりに気をつかってくれたようだ。

見直した。



「あ〜、肩凝ったぁ〜」

未礼が、腕を広げて伸びをした。

そのとたん、パンッという乾いた音とともに、私の額に衝撃が走った。

何だ?!

「きゃあ!!大丈夫!?啓志郎くん!!」


額を押さえつつ何ごとかと思えば、

「ボタンが…」

弾け飛んだようだ。
ブラウスの、上から三つ目のボタンが。

無理やり押しこんで止めていたようだ。
いつもは開襟している、そのボタンを。


地面に転がったボタンを拾って手渡す。
「…大丈夫か?」

「セーター着たらこのへんは、隠れるから大丈夫大丈夫♪」
あっけらかんとボタンの外れたシャツに残る糸くずを引っ張っている。


…なんと言ってよいのか…
恥じらいというものはないのか…。

先ほど、見直したところだというのに。

この女は…。



そのとき、
下校する生徒が近くを通る気配を感じ、
あわてて私は上着を脱いで未礼に渡した。

「セーターを着るまで隠すんだ」

もし我が父のように、未礼の胸元に興味を示すような男がいるとすれば、
そんなやからには、この姿を見せてはいけない気がしたのだ。


「ありがとう。啓志郎くん」
未礼は、私の上着を胸の前で抱えるようにして持った。


とたん、
「わっ」
未礼は、がに股になって、あせってスカートを押さえた。

「今度はなんだ?!」