白い鯉。

「ああ。カノンか」


「カノンは、全身真っ白ってわけじゃなくて、左目の下に黒い斑点模様があるだろ?
そうだな、まるで泣きボクロみたいな」


言いながら、優留は自分の左目の下を指さした。

「未礼嬢の母さんも、左側に泣きボクロがあったみたいだぜ」



確かにカノンにはホクロというには大きいが、目の下に丸い黒い模様がある。


以前、未礼の母親の写真を見たが、ホクロは…あっただろうか…しばらく粘ったが思い出せなかった。



優留は、ブランコをこいだ。


ブランコがきしんで振り上がった。
振り子のように押しては引くそれを無意識に目で追う。


時おり、こちらを振り返りながら、優留は自らが知っているという、“昔話”をしてくれた。



優留の話によれば、

我が祖父は自分の息子と、友人である垣津端夫妻の娘を結婚させようと目論んだ。

自分が、なしえなかった夢でも次世代にたくすかのように。


つまり、我が父と、未礼の母親を結婚させようとしたのだ。


しかし、結局、垣津端夫妻には一人娘しか授からず、娘を嫁に出すわけにはいかなかった。

息子の一人を婿として差し出すには、当時の垣津端商事は規模が小さく、つりあいの取れなかった縁談は難航した。


祖父は、当時中学生だった息子(我が父)と垣津端の娘(未礼の母)を個人的に何度か引き合わせた。

とある喫茶店で。

しかし、縁談が上手くまとまることはなく、我が父と未礼の母との仲も深まることもなかった。


その喫茶店が“カノン”という名前だったようだ。




そのような経緯で、未礼が私の婚約者に抜擢されたのだ。


もちろん、我が家に相応しい家柄という前提ありきだが、
「それ以外の道理にかなった理由は…」


「そう、得にない」

優留は、きっぱりと言いきった。


「ジイさんのただの執念だ。
自分が手に入れられなかった女の子孫と、自分の子孫を…って。
ひっぱっといて、そう、その程度の話だ。
大人の事情ってのは、ほんと、その程度のもん。
バカらしいだろ。
ほんっと情けねー」

と可笑しげにケラケラ嘲った。