朝起きて、鯉のエサをやる。

今朝は、弓を引く時間があった。

未礼を起こし、朝食をとる。

そして、登校する。


私の日常だ。



「今日の小テスト勝負だ、啓志郎!!手加減はしないゾ」


教室に入ったところで、相変わらず何かにつけてジャンに勝負を吹っかけられる。

「のぞむところだ」



「もう今日で11月も終わりですか。早いものですわね」

日直の琴湖が、黒板の日付を書き換えながら言った。



席に着き、携帯電話を手に持った。

父から送られた写メールを開く。


父と兄のツーショット写真だ。


さすが親子だ。
よく似ている。


「ほんと、ご無事で何よりでしたこと」

琴湖が私の携帯電話を見て言った。


「ああ」

私はうなずく。



先日、無事に兄が解放された。



一時は決裂したかに思えた犯人側とのくわしいやり取りは教えてもらえずじまいだったが。

報道によれば、犯人側の要求は通っていないようだ。
それでも兄は生きて解放された。


どこかもわからぬ荒野に捨てられるように解放された兄は、助けを求めて、さまよっていたところを無事保護されたのだという。


衰弱はしていたものの、奇跡的にたいしたケガもなく兄は生きて、現地で待機していた父と再会したのだ。



兄の無事がわかると、すぐに父から電話と、この写メールが届いた。


笑顔の兄と父の笑顔の写真。


兄は、ずいぶんやつれているようにも見受けられたが、元気な笑顔は、この前帰国したときと変わりはなかった。



解決後、父は、現地から仕事先のNYに戻り、
その後、母も、父を追うように早々日本を発った。


そして、兄はといえば、帰国するでもなく、こりもせず海外支援活動を続けるため、どこぞの国に渡り、また井戸でも掘っているのだろう。



ホテルでの軟禁状態から、私は日常に戻ってきた。




NYに戻る母を見送るために、空港へ行ったときの、母とのやり取りを思い出していた。