だいたい私は忙しい。

優秀であることを保つために、一日に課していることは多い。

そんな時間を割いてまで、親交を深めることに意味を見出せずにいるのだ。


私にとって、父の命は絶対である。

父が快諾にこだわるというなら従うまでだが、政略結婚において優先されるべきは、当事者同士の感情より婚姻の事実だ。

つまり、嫌々しようが、喜んでしようが婚約は婚約。結婚してしまえば同じこと。


未礼は、“断る理由はない”と言った。

承知してもらえたようなものではないか。

先方に断る意思がなければ、あとは書類のやりとりだけでこと足りる。

そうすればもう、結婚の日まで会う必要はない、ぐらいに思っていた。

携帯電話の番号すら必要ないと、聞きさえしなかったのだ。




…-が、意に反して、すぐに私の考えは改めさせられることになるのだが…。






「今月末、我が高等部では文化祭が行われるんですよ」

にこやかに、高等部の学部長は言う。

放課後。

時間的にはSHRが終わったばかりの高等部の廊下を高等部学部長に案内されて歩いた。

すれ違う生徒たちが学部長に頭を下げる。

「啓志郎様、こちらでございます」

ピンと張られた手のひらの先に3年7組。未礼の教室があった。