賽銭箱に硬貨を投げ入れ、兄の無事を神に祈る。


賽銭は百枚用意してある。

一回ごとに、一枚入れる。
硬貨がなくなれば、百度参りが終わるという寸法だ。



百度参りを思い立ったのは、夜、布団に入ってからだった。



布団にはいる直前、現地に飛んだ父から、グリーン☆マイムのスタッフの滞在先に到着、合流したと連絡があった。


報告は、それだけだった。
兄はまだ……、ということだ。


すぐに布団から出て、貯金箱をあけた。

硬貨の額はバラバラではあるが、百枚を巾着袋に入れた。


百度参りは早朝に行うのがよいと聞いたことがある。

少し寝てから、神社にむかおうと思ったが目が冴えて結局眠れなかった。


未礼に置き手紙を残し、家を出た。




夜明け前は、肌が凍てつく寒さだ。


早歩きで息は上がろうとも、身体は冷えきったまま、カチカチと歯が鳴る。

かじかみ巾着から上手く硬貨が取りだせない。

11月も下旬になろうという時期ゆえ仕方ないが。


素足に、火傷をしたような痛みが走る。


「兄上の“痛み”に比べればこんなもの、とるにたらぬ…」


暗闇の中、まっすぐ歩を進めた。

管理人から聞いた、兄の真実を思いながら。




6年前、兄たちは、山登りで危険な崖道を通り、誤って全員転落、一週間遭難した。


兄は、体中を8ヶ所も骨折したが、奇跡的に後遺症もなく回復した(顔の古傷はそのとき受けたケガだ)。

しかし、天島頼地は、処置のかいなく亡くなり、
管理人文城綾人は、脊髄を損傷したことで障害が残り、以来車椅子での生活を余儀なくされた。


当然ながら、兄は、天島と文城の親族から責め立てられたのだという。


管理人文城は、自らの状況にふさぎ込み、一人責任をかぶった兄のフォローができなかったのだ、と目を伏せ当時を悔いた。


『孝市郎は悪くない。
強引に危険な崖の方に行こうって言ったのは、頼地だった。
同意した方も悪いって言うなら、孝市郎だけじゃなく僕だって同罪だ…』


だが、兄は、自分を責め続けたのだという。