我妻教育

「どうして、兄上は、こんな目にあわなければならないのですか!!」


「…そうだな」

父は、うつむいた私の肩を抱いた。





さげすまれることなど、何もない。



兄には兄の強い意志があったのだ。



異国の地で、信念を貫き通さんと泥と土にまみれる、兄の笑顔がありありと浮かんだ。

見たこともないのに。








気がつくと、陽射しが差しこみ外が明るくなっていた。

朝だ。


いつの間にか、眠ってしまっていたようだ。
兄の布団の中で。

父の姿はなかった。



浅い夢の中で兄の姿を見た気がしたが、ぼやけて内容はどうしても思い出せなかった。



ぼんやりした頭で、時計を見ると、午前9時をさしている。


部屋を出て、最初に会った使用人に、まだ兄の状況は、依然として分かっていないままだと聞いた。

学校へは、行く気になれない。



顔でも洗おうと、洗面所に歩きだしたとたん、前触れなく気がついた。


「カノン…!」


鯉に餌をやっていない。
昨日も。

「しまった!!」


何たること。

鯉の世話は、父に預けられた私の任務だ。


それどころではなかったと言ってしまえばそれまでだが、罪のない鯉は、待っている。
腹をすかせて。

動物の世話を請け負うには、多大な責任があるのだ。



庭に向かおうと急いだ。

途中、廊下で使用人2名が、陰口を言う声が聞こえた。

使用人は、私に気づいて、何事もなかったように頭を下げて、各々の仕事に戻っていった。


私は、鯉の餌を持たず、庭に出て池まで走る。



いつも私が餌をあげている橋の中央に、未礼が立っていた。





先程の、使用人たちの話を思いかえした。


『こんな時に、よくもまあ、のんきに餌なんてやってられるわね』

『…ほら、あの子には、孝市郎さまのことは関係ないから…』