我妻教育

「俺は、明日の朝一番に、日本を発つよ」


「兄上のいる国へ…?」

私は、父の横に腰かけた。


「まだ行くべきじゃないって外相にも言われてるんだがな…」


父の虚けた瞳には、壁のコルク板にはられた兄の写真が映っている。




「啓志郎。NGOって、わかるか?」


脈絡なく、唐突に父が聞いてきた。



「はい。非政府組織。国際的な分野で活躍する、民間の非営利組織のことです」


「お、さすがだな」


「我社が、慈善事業に積極的なことを存じ上げておりますゆえ。
企業の社会的責任として、飢餓救済や環境保護など、NPOやNGOの活動に賛同、協力し…」


私の、ふと気づいた顔を、父は見逃さずニッと笑った。


「さすが、察しがいいな」



「・・・もしや、兄上は、海外のボランティア団体に参加していたのですか?!」


目を丸くした私に、父は、うなずいた。



「孝市郎が、家を出てから3年くらいたった頃に、連絡があったんだ。
途上国支援をする国際NGOを立ち上げたから、活動内容に賛同してくれるならスポンサーになってくれってな」


「参加ではなく、兄上自らが立ち上げたのですか?!」

思わず半身になった。



「そうだ。孝市郎は、中近東や中南米、アフリカで、貧困や戦争で苦しむ子どもたちを支援する活動をしているんだ。
その活動に我が松葉グループも参画している」


「…どうして、今まで教えてくれなかったんですか?」




初めて聞く兄の事実。

うろたえを隠せない私の肩に、父はトントンと手を置いた。



「知ってるのは、俺と母さんだけだ。
まだ団体としては小さいし、なすべきこともまだ、なしとげられてないからって。
言うときは自分で言ってビックリさせたいからって。だからまだ誰にも言うなって…」




私は言葉を失った。




何も知らず私は、ずっと兄のことを軽蔑してきたのだ。


兄は、父の金をつかい、無意味な世界放浪をしていると。




猛烈に兄への態度を恥じると同時に、やり場のない憤りを感じ、思わず父に、食ってかかった。

「…どうして…っ!」