我妻教育

「けっこう取れたよ~」


機嫌良く未礼は、制服のブラウスの中に手をつっこみ、胸元から4個、スカートのポケットから2個、左右の靴下から1個ずつ、柿を取りだした。


「啓志郎くん、食べるでしょ??家政婦さんたちも食べてね♪」

「・・・ああ、いただくが・・・しかし、どれだけ詰めこんでおったのだ」


満足げに笑う未礼を見て、家政婦たちは、顔を見合わせ微笑んだ。
思わず私の口元もゆるむ。


場が、なごやかな雰囲気になった。






夕食後、収穫した柿を食しながら、未礼に話をした。




祖父母は、病気療養のため、郊外の別邸。
両親は、NY。

この、松園寺家の本邸に現在居住しているのは、私と未礼と、数名の使用人。


家には、私の身の回りの世話や、屋敷と庭の手入れをするような使用人しかおらず、
松園寺家の血縁や、松園寺グループの経営に関わったりするような人物はいない。


使用人は、みな年配で、父が幼少の頃から我が家につかえている者がほとんどだ。
(つまり、父の味方ばかりということ)


つまり、松園寺の本邸でありながら、実際の権力の中枢から見れば、実質“離れ小島”。


優留の裏で糸をひけるような人物は私の周囲にはいない。

幸いなことだが、逆に、積極的に情報を得る手段がここにはないのだ。

父は、私を後継者にすると言ったが、優留の婚約によっては、情勢は変わってくる。


父からの、メールの返信はまだない。
週末に、病気療養中の祖父に会いに行こうと思う。


身動きが取れない間は、噂に振り回されてはいけない。

だが、私も、待っているだけで、何も行動しないわけにはいかない。

しかし、何をすべきか・・・。


とにかく、混乱している。
迷惑をかけるかもしれない。



「・・・とまぁ、このような、まったく要領の得ない内容で申し訳ないが・・・。何も話していないよりはましかと思ってな」



教育をほどこすために我が家に連れて来たことを除き、
現状を出来るだけ未礼に話しておこうと決めたのだ。


食しながら聞いてくれ、と言っておいたにもかかわらず、
未礼は途中から柿に手をつけず、黙って私の話を聞いていた。