我妻教育

憂鬱な気持ちのまま、自宅へ戻った。


家に入る前に気晴らしにと思い、庭を歩いていると、声が響いてきた。

未礼と、チヨたち家政婦らしき女の騒ぎ声だ。


「未礼お嬢さま、危険でございます!おやめください!」

「大丈夫大丈夫!あともうちょっとー!」


「何ごとだ!!」
庭を駆けて、声のする方へ急いだ。

「!!?」

柿の木の下で、未礼が脚立の上に立って、柿を取ろうとしている姿が目に入った。

脚立を押さえる家政婦たちは、未礼を止めようと必死だ。

未礼は、ミニスカートの片足を木に引っかけて、思いきり背と手を伸ばして、まさに柿をつかんているところだった。

危険な行動に、肝が冷える。


「未礼お嬢さま、これをお使い下さい!ですから早くお降り下さい!!」
高枝切りばさみを持った庭師が走ってきた。


「よぉーし、取ったぁ!!」

当の未礼は、周囲の心配をよそに会心の笑顔で手の中の柿を見た。


「何をしている!危険だぞ!」

「あ、啓志郎くん!おかえりぃー!!パス!!」

未礼は、柿を持った手を大きくふった。
私が、脚立の近くにたどり着くと、未礼は、私に柿を落として渡した。

「イイ感じで熟してるよ〜♪食べ頃だよぉ!」

未礼は、さらに手を伸ばして柿を取ろうとする。
脚立が、揺れてきしむ。
私もあわてて押さえた。

「わかったから、もう降りるんだ!」

柿をチヨに渡し、私も2段ほど脚立をのぼった。

そして脚立から降りる未礼の手をきつくつかんだ。
無事に足が地面に降り立つのを見届け、一安心した。


「まったく。危ないではないか」

「エヘヘ。美味しそうに実ってたからつい・・・」

「エヘヘ、ではない。落ちてケガでもしてらどうするのだ。柿を食したいなら、庭師に頼めばよいであろう」

「わざわざ頼むのも悪いと思って・・・」

「結局大騒ぎになっているではないか」

「・・・ごめんなさい」

未礼はシュンとして、私や、家政婦たちに頭を下げた。
家政婦たちは、安堵のため息をついた。


「・・・わかればよい。ほら、持っている柿を出すんだ。見苦しいぞ」

私が手を出すと、未礼は、いたずらっぽく笑った。