我妻教育

「いや、特にたいした用でもなかったみたいだぜ。近くまで来たからって。昨日未礼に菓子もらったから返しに寄ったんだとよ」


「・・・ああ、そういえば・・・」
優留が、未礼の買い置きの菓子を持って帰っていたことを思い出した。
「それだけか?」


「・・・まぁ、そうだな、用は・・・それだけじゃね?」

桧周の話し方は、どうも歯切れが悪い。
私が眉をひそめると、桧周は言い出しにくそうに首のうしろをかいた。

「いや、マジで。菓子返して帰る前に、ついでに未礼の乳を揉んでっただけ」

「何だと?!」

「揉む・・・っつうか、わしづかんでったって感じだな。どんなもんか確かめたかったんだってよ」

「・・・あいつめ・・・!!」

私は勢いよく席を立った。
慌てて桧周も立ち上がる。

「おい!どこ行く?!」

「優留のところだ。あいつめ、未礼に危害を加えるとは許せん!!!」

握った拳にさらに力を加え、一直線にカフェテリアの出口にむかった。


「危害・・・って!んな大げさなことじゃねぇよ!大丈夫だって!未礼は全然気にしちゃいねぇって!!」

「未礼が気にしていなくとも、私は許せん!無礼だ!」

「優留が男だったら、とっくに俺らが殴ってるって!」

「・・・」

「とにかく落ちつけ。話はまだ終わってねぇ」

桧周は、なだめるように私の肩をつかんで、イスに座るよううながした。

席につきながら、桧周の顔を見た。

「ほんとに未礼は、大丈夫なのか?」

「ああ。乳に関してはな。なんら気にしちゃいねぇよ。もらった菓子が、あげたやつより豪華だっつって喜んで食ってたくらいだしな」

桧周は、私の神経を逆なでしないように、優しげな声のトーンで軽く笑った。

「・・・そうか。なら良いのだが・・・」
私は息を吐きながら、揺れる紅茶の水面に目を落とした。


「未礼が気にしてんのは、お前のことだぜ」

「え?」
ふせていた視線をあげた。

「お前が、家のことで大変なんじゃないかって。自分は何もしてやれてねぇって、気にしてた」

「・・・そうか。・・・優留のことで、やはり未礼に心配をかけさせてしまったようだな・・・」

私は再び視線を落とした。