『龍司ってさ、黒猫みたいだよね。』


そう、リビングの端に座り込んでいる俺と同じ目線の高さまでしゃがみ込み、彼女は顔を覗き込んで来た。


壁へと頭を預けるように視線を上げると、彼女、由美姉は笑顔を零す。


確かこの記憶は、ヨシくんたちに拾われて、半年ばかりが過ぎた頃だっただろうか。



『人との間に必ず付かず離れずの距離を取って過ごすの。
ホントは甘えたいくせにね。』


『…何が言いたいの?』


『知ってる?
黒猫ってさ、ホントは寂しがり屋なんだよ。』


益々意味がわからない上に、何が言いたいのかサッパリだった。


思わず眉を寄せ、この女は頭がおかしいんじゃなかろうか、なんてことまで思ってしまうんだけど。



『嫌われ者の黒猫は、傷つきやすいんだよ。』


『…嫌われ者、ねぇ。』


『いや、正確には自分で自分のことを嫌われ者だと思い込んでる、って感じかな。
あたしは大好きなのにね。』


“ほら、魔女の宅急便に出てくる猫とか!”と、由美姉は俺の眉間に刻まれたシワを人差し指でわざとのように軽く突いた。


自分で自分のことを嫌われ者だと思い込んでる、なんて、今にして思えばひどく耳の痛くなる台詞だ。



『ちょっと芳則に似てる。』


苦笑い混じりに呟かれた声色は、正直あまり受け入れたくはないと思っていた。


だってあの頃はヨシくんなんて好きとか嫌い以前にめちゃくちゃ苦手で、そんな人と似てるなんてマジ勘弁、と思ってしまったのだから。


今にして思えば、言い当てられてる感じだけど。



『いつか、龍司の全部を受け入れて、それでも愛してくる人が現れるよ。』