7月はいつの間にか終わっていて、俺の誕生日はもうすぐそこまで迫っていた。


10年前のあの日、親父を刺して家を飛び出したのがちょうど誕生日で、あれ以来、どうにも自らのそれを喜ばしくは思えないのだ。


いくら振っ切った過去とは言え、やはり良い記憶ではないのだから。



「で、これが売上目標と純利益ね?」


パサッと目の前に書類が落ちた時、俺は少しげんなりした様子で意識を手繰り寄せた。


店の開店準備は着実に進んでいるけど、でも、誕生日を無事に過ぎるまではどうにも気合いが入らない。



「聞いてる?」


「聞いたってわかんねぇよ。
要は頑張りゃ良いってだけだろ?」


数字と漢字の羅列は、視線を落としただけで白旗モンだ。


こんなの眺めたってオナれるわけでもないのに、と俺は、投げやりに言葉を返すことのみ。



「ホント、お前は毎年この時期になると上の空だね。」


わかってんなら良いだろ、と本気で思う。


それでも怒られているようで手持ち無沙汰のままに煙草を咥え、俺は白灰色にため息を混じらせた。


携帯を握り締めて眠る毎日だけは、やっぱりいつまで経っても変わることはない。


電話したくて、でも出来なくて、出口の見えないループの中に居るようだと思うと、肩をすくめるように俺は、もたれるソファーに身を沈ませた。



「外はありえないくらいに暑いってのに、お前は湿っぽくて嫌になるよ。」


「…すいませんねぇ。」


「大体さぁ、好きだから離れるとか、そもそも意味不明なんだよ。」


何で今更、そんなことで怒られてるのか、こっちの方が意味不明だよ。


それでもバツが悪くて、煙草を咥えるフリして口を閉ざせば、ヨシくんは苛立ちを顔全体であらわにしてくれた。



「お前の頭の中には、今、何がある?」