「憎んでるんじゃないのか?」


「まぁ、どっちかと言えば。」


「会ったら、また思い出すかもしれないんだぞ?」


「そうかもしれないね。」


必死、という表現がピッタリと言った風に、ヨシくんは言葉を並べるように問うてくる。


会いに行くなんて一言も言ってないってのに、里親の心境ってのも複雑なんだな、なんて俺は、他人事のように思ってしまうんだけど。



『夏希が会いたくないなら、俺はそれで良いと思うよ。』


『…だったら、早く…』


『けど、それじゃ一生過去に怯えることになるよ?』


結局、夏希は過去や父親と向き合うことを選んだっけ。


会う必要なんてどこにもないし、今までと同じように暮らしたって別に良いんだろうけど。


もし会ったとしても、ヨシくんが言うように良い方向に転ぶとも限らないんだし。


生まれてきて良かった、生んでくれてありがとう、なんてことも未だに思えないけど、でも、心のどこかで会いたいと思う気持ちも少なからずあるのは確かだった。


15の頃より少しばかり大人になった今なら、もっと別の形で受け止められるのかもしれないと思ったから。


それでも、相変わらずこのソファーの位置は日当たり良好で、長袖しか着れない自分自身を恨めしく思うこともある。



「向きあうってさ、言うより難しいことだね。」


「お前には向いてない。」


勝手に決めんなよ、って思いながら、諦めるように肩をすくめた。


会いに行けば、育ての親のヨシくんを悲しませるようなことになるのだろうか、と思うと、それもまた、俺を踏み止まらせる一因になる。



「考える。」


そう、一言だけ返すと、彼は何も言わずに立ち上がり、俺に背中を向けた。


吐き出す白灰色に記憶の欠片が混じり、慣れたはずの味は苦味を帯びる。


どうすりゃ良いのかなぁ、ホント。