『…電話、何度も掛けてんすけど…』


『心当たりは?』


そう問うてみても、彼は首を横に振るだけ。


人の出払った乱雑とした事務所の隅っこで、戻ってきた智也は途方に暮れていた。


親に頼るわけないし、地元になんて戻るはずないだろうし、なんて彼は、零すように漏らすだけ。


煙草を咥えた俺は、宙に向かって白灰色を吐き出した。



『お前、アイツに何かしたの?』


『するわけないっすよ。
アイツまだ、龍司さんのこと好きだし。』


本気で殴り飛ばしたくなるような台詞で、やっぱり俺は、舌打ちを混じらせた。


そんなのもう、お互いにわかりきってることだし、なのに何で、俺らは上手くいかないんだろう、って。



『…もしかしたら、龍司さんが電話したら出るかも…』


『出たとして、どうすんの?』


『迎えに行ってやってください。
アンタにも少なからず、その責任はあるはずだ。』


終わったと言いながら、それでも心配してる自分自身に心底嫌気がさした。


何度美弥子とヤったって忘れられないし、こんな些細なことで冷静じゃ居られなくなるのだから。



『アンタが連れ戻してくれなきゃ、俺は一生恨みますから。』


その瞬間、睨む智也の胸ぐらを掴んだ。


ガシャーンとロッカーに叩きつけられたような状態の彼は痛みからか唇を噛み締め、悔しそうに目を逸らす。


勝手なことばっか言ってる智也にも、思い通りにならない夏希にも、とにかく腹が立って仕方がなかったんだ。


拳を振り上げたけど、でも、すんでのところでそれを止め、俺はひとり、きびすを返した。