『悪いけど、俺はもう、お前のこと助けるつもりはないから。』


終わったと思ってたんだ、何もかも。


先に拒絶したのは俺で、夏希の縋る手を振り払い、智也に託した。


俺達の道は、もう交わることなんてないと思っていたのに。



『夏希、知りませんか?』


そう、智也から少し震える声色で電話があった時、俺は思わず眉を寄せた。



『…昨日の夜にアイツ出て行ったきりなんす…』


『は?』


『…もしかしたら、この街から消えたのかもしれねぇんだよ…』


突然に、しかも一体何を言っているのかなんてわかんなくて、余裕なんて欠片もないような、気を抜けば泣き出してしまいそうな電話口の向こう。


つまり、彼女は行方不明になったってことだろうか。



『お前が一緒に居たんじゃねぇのかよ?!
情けねぇ声出してんじゃねぇよ!』


『…いや、だって、そんな…』


まるで混乱してでもいるように紡がれる声色に、俺は舌打ちを混じらせた。


出て行ったきりだとか、この街から消えたかもしれないとか、あの日の自分の選択が間違っていたかのようで、唇を噛み締めるようにして、気付けばゴッと壁を殴っていた。


俺があの日、アザを作っていた彼女を突き放し、どんな想いで智也に電話したか。



『あれだけのこと言ってたヤツが、このザマかよ。』


『…すんません…』


『テメェ、泣き事なんか言ってる前に、さっさとアイツ探し出せ!』


苛立つように吐き捨て、電話を切った。


自らの意思でこの街を出たとするならば、もしかしたら探し出すことは困難なのかもしれないし、何より、探せたとしてもどうなるだろう。


今更俺は、アイツに会えんのか、って。