『…何、で…』


『黙れよ。
お前、誰に拾ってもらったか考えろ。』


あの日、瞬間的に“陽平”ってヤツの異変には気付いたんだ。


ラリったヤツなんて星の数ほど見てきたから、正直ヤバいと思った。


でも、それと同時に夏希を殴ったあの男に対して、意志とは別に自分の奥底に煮えたぎるものが溢れてきて。


まるで親父の時のように、殺してやりたいと思う衝動を抑えることに必死だった。









「龍司っていっつもそうだよね。」


そんな声に意識を手繰り寄せてみれば、パソコンをする手を止めた彼は思い出したように口元を緩める。


ヨシくんはいくつもの店を経営してるから、結局のところ自宅で全てをまとめることが多くて、自室ですらも、彼にとっては仕事場と何ら変わりはないらしい。


まぁ、四六時中仕事して、それに逃げてるだけなんだろうけど。



「自分のオモチャ取られたらすぐに不貞腐れる。
ガキと一緒だよ。」


「知ってる。」


「だったら、夏希チャンに対して、ただの執着だって気付かない?」


「―――ッ!」


「離れることを選んだお前の選択は、間違ってないんだ。
だからもう、そんな死人のような目をするな。」


投げられた言葉に俺は、やっぱり何も言えなかった。


実際、ここに来てから俺は、ソファーの上から動こうとさえしていないんだから、もう、死んでるのと何ら変わりはないのかもしれない。