あれはまだ、夏希と出会うより少し前の冬だったかな。


コポコポとコーヒーメーカーが静かな帳に音を響かせていて、ビール片手にニュース観てる俺と、その少し向こうで事務所のデスクに向かってる智也。


智也は入ってきたばっかで、初めはハタチとか言ってたけど、そんな嘘もすぐにヨシくんに暴かれた。


それでもあの人は年齢なんか気にするタイプじゃないし、忠犬みたいなコイツはすぐにみんなから気に入られたんだ。


俺は何でも良かったんだけど、仕事押し付ける都合の良い後輩が出来てラッキーって感じで、何を勘違いしたのか智也も、俺のことを格好良いとか言って何故かなついてきた。


動物が動物になついてどうすんだよって、本気でそう思ったけど。



『…虐待、ねぇ。』


ニュースの画面が切り替わり、虐待されてた児童が保護され、その親が捕まったと報道され、多分無意識のうちにだと思うけど、俺はそう呟いていたんだ。


あの苦しかった日々は、ニュースになればこんな漢字二つで表わされるのかって、そう思ったら何か虚しくなっちゃって。


そういや由美姉が死んだのだって、小さな記事だったよな、なんて思っていたら、カタッと智也はペンを置いた。



『龍司さん、虐待ってどう思います?』


『あ?』


『俺、本気で許せないんすよね。』


何言ってんのかわかんなかったけど、でも、正義漢ぶってる感じに聞こえ、俺は思わず眉を寄せてアルコールを含んだ。


こんな台詞なんて正直聞き飽きたし、だったらお前は何が出来るんだよ、ってそう思うんだ。



『俺の親友も、そんなのされてたっすから。』


『……え?』


『悪い子とかいらない子とか、そんなこと言うんすよ。
悪いのもいらないのも、ホントはその親なはずなのに。』


そう唇を噛み締めた智也に、俺は戸惑うように視線を向けた。


忘れていた記憶が掘り起こされていくようで、瞬間に右腕が鈍い痛みを放ち始めて。



『…そいつ、今は?』