ヨシくんが持ってると何でも怪しいものに見えちゃうけど、“市販のものだ”と彼は、そんな俺の視線を一蹴した。


そしてテーブルの上に置かれたのは、“睡眠薬”と書かれた水色の箱。


もちろんそれには使った形跡があって、ヨシくんもこれを服用しているだろうことは明らかだった。



「ジャンキーだな。」


「ハッパのこと言ってんだったらお前に言われたくないし、あれはカナダ辺りじゃ普通に吸うモンだ。」


「日本だよ、ここ。」


「生きてる世界の国境なんて、小さなものだよ。」


やっぱ由美姉のこと引きずってんじゃん、って。


そう思って口元だけを緩めると、向かい合う彼は困ったように肩をすくめた。



「好きな女が生きてるなんて、羨ましい話だな。」


伏し目がちにヨシくんは、そんな風に言うだけ。


本当のこの人は、冷たいんじゃなくて人と深く関わるのが怖いだけ。


関わって、また由美姉のように一生会えなくなることに、異常なまでに恐怖心を抱いてるって、俺は知ってるから。



「安心しろよ、ヨシくん。
俺はアンタより先に死ぬことはないし、アンタに殺されるなら恨んだりしないから。」


「迷惑な話だ。
ペットに心配なんかされたくないね。」


「パパはすぐにそうやって突き放すな。」


「ラリってんじゃねぇよ。
ままごとがしたいんなら智也とでもやってろ。」


今、一番聞きたくない名前だと思った。


もしかしたら夏希は今、アイツの胸で泣いてるんじゃないかと思うと、また息苦しさを拭えなくなる。


手を離したのは俺なのに、都合が良くて、つくづく我が儘な話だ。