向日葵-the black cat-

ただいまって言ったらおかえりって言って出迎えてくれて、何かもう、それだけのことで俺には嬉しいってゆーかさ。


ありふれた日常だけど、悪くないんだ。


こんな生活の延長線上にヨシくんの言う結婚ってヤツがあるんだとしたら、楽しすぎて、思わずこれからはそのことでも考えようかな、なんて思ってみたり。



「…何で笑ってんの?」


「面白いこと考えてたから。」


「何?」


「教えない。」


「ケチ。」


そう、不貞腐れたように膨れた頬を人差し指で突いてやると、まるで風船がしぼむように彼女のそれは、唇を尖らせるような形に変わった。


そんなものの所為でマジで笑えちゃって、口元を押さえるようにして俺は、それを噛み殺さなきゃならないわけだけど。



「忙しくなる前にさ、どっか旅行でも行く?」


「良いよ、そんなの別に。
あたし、この部屋に居るだけで落ち着くし、遠出したら疲れそう。」


楽しみ甲斐のねぇヤツだな、と思った。


だけども結局は、俺らはこんな世界でふたり、ゆっくりしてるのが性に合ってるのだろう。


都会の騒喧も、人の欲とか醜いモノとかも全部、今まではまみれすぎてたから。



「おいで。」


ベッドに背もたれるように絨毯へと腰を降ろし、彼女に向けて両手を広げてみれば、少し迷った顔した夏希は、だけどもいざなわれるように俺の腕の中へとスッポリ収まってくれた。


抱き締め合ってるだけですっげぇ落ち着いて、もうそれだけで、眠くなる。


夏希の髪の毛が俺の首元を軽くくすぐって、キスして笑って、好きだよ、って言ったりなんかしてさ。


何でもないことなんだけど、まるで世界で一番幸せな気分になれるんだ。


明日も明後日も、夏希と一緒にこんな風に笑ってられたらな、って思うのは、我が儘なのかな。







END