「へぇ、それで?」


「好きだとヤりたくなるのって、普通なんだろ?」


「わかってないよ、龍司。
ヤりたいから好きになるんだ。」


「……え?」


「好き、って理由をつけてるだけだよ。
子孫を残す行為を正当化するために、人間は感情をくっつけるんだ。」


“厄介な生き物だよ”と、彼は言う。


ヨシくんの言ってることはいつも正しくて、だからこそ、自分のことが何もわからなくなるんだ。


俺はただ、夏希とヤりたいだけだったのかな、って。



「…由美姉に対しても、そんな風に思ってた?」


「忘れたよ、そんな昔のこと。」


「じゃあ、何でハッパ吸って紛らわしてたの?」


「俺はね、龍司。
たとえアイツが別の男を選んでたとしても、それで幸せになれるなら祝福出来るんだ。
けど、死んじゃったら幸せも何もないから。」


答えになってないな、と思った。


本当は今も、由美姉のこと想ってるくせにって、そう思ったけど、でも、やっぱり言えなかったんだ。



「いい加減気付けよ、龍司。
お前は“可哀想な夏希チャン”が好きで、傷を舐めてあげたかっただけだ、って。」


「―――ッ!」


「そもそもお前は、他人の痛みを受け入れるほどのスペースなんかないんだ。
優しさじゃなくて同情で、捨て猫拾ったけど飼えなくてまた捨てるヤツと一緒。」


ひとときの優しさを与えて、そしてまた地獄に落とす行為ほど残酷なものはないんだと、前にヨシくんが言っていた。


ひどい眩暈を覚えて、吐き出せない真っ黒なものが自分の中に溜まっていくのを感じて、無意識のうちにまた手が震え出す。



「眠剤出してやるから、それ飲んで寝ろよ。」