リハーサルのホールに入る前から彼のピアノの音が聞こえた。胸が震えた。 ―ベートーベン悲愴 第2楽章― 繊細で情熱的で、美しいメロディー。 誰もが惹かれてしまう、彼のピアノ。 「何泣いてるんだよ」 と、声がした。 雪依は泣いてるのも気付かなかった。 「先生、会いたかった…」